高槻は日経ベストPCというパソコン雑誌の編集者です。一応、専門分野に携わるものとして、最近とくに目に余るのが「ブロードバンド」を巡る報道ですね。ブロードバンドはそもそも業界用語ですが、一般向けにもかなり浸透してきました。しかし、弊社の媒体も含め、報道の仕方に誤解があるように思います。
ちなみに、ブロードバンドとは、CATVを使ったインターネットやADSLや、近未来の光ファイバーのインターネットなど、高速通信のことだと思えばよいです。
何が誤解かというと、「××な高速通信だとCD1枚を〇分でダウンロードできるようになる」との記述です。記事上でのたとえとしてはわかりやすいのですが、ミスリードです。以前にもこのページに書いていますが、インターネットが十分高速になると音声や動画などはダウンロードする必要がなくなります。だから、ダウンロードが何分というたとえは不適切なのです。
水道にたとえるとわかりやすいと思います。今の日本では、水道水をどこかにためておく人はそれほど多くはないのではないでしょうか。すぐ飲めるようにポットに水をためておくとか、断水に備えて風呂や洗濯機には常に水が満たしてある。こんな家庭は意外と少ないと思います。
もし、水道管が細くて、コップ1杯の水を出すのに5分かかるとしましょう。喉が渇いたときに5分待つのは嫌ですから、あらかじめポットに水をためておくのが賢明です。しかし、実存する水道は、蛇口をひねれば数秒でコップは一杯になります。つまり、水をためておく必要はなく、飲みたくなったときに蛇口をひねればいいわけです。
インターネットの回線の太さは水道管の太さです。ネット上にあるコンテンツをいったんダウンロードするというのは、水道水をいったんポットにためておくのと同じです。現状は水の出が悪い、つまりインターネットの回線が細いために、あらかじめ必要な量になるまで、データを「溜め込んで」いるわけです。
高速通信は言うなれば、勢いの良い水道、です。が、ここで注意すべきは、勢いが良すぎる必要はないという点です。コップ1杯に水を満たすのに、3秒かかったとします。これが0.3秒になったところで、別に嬉しくないですよね。3秒くらいなら誰だって待ちます。コップ100杯分の水をためるのに6分(=300秒)かかるのが、30秒に縮まるというのはかなり効果大とも思えるのですが、100杯の水を飲み干すのに10日とか1カ月かかります。となると、100杯の水をためておく必要はなく、飲みたいときに1杯ずつ水道から水を出せばいいですね。こういう言い方もできます。台所にためた水と水道局にある水が区別なく使える、と。
インターネットもこれと同じです。2時間の映画をダウンロードするのが1時間から10分に短縮されてもそれほど意味はありません。なぜなら、再生しながらダウンロード(ストリームといいます)すればよいから。このとき、ダウンロードにかかる時間が再生するのにかかる時間よりも短ければよいわけです。つまり、2時間のデータをダウンロードしなが再生するのに、ダウンロードが30分でも10分でも結果は変わらないわけです。回線が十分に速ければ、コンテンツが自分のパソコンのハードディスクにあろうがインターネット上にあろうが、関係なくなるわけです。
そもそもコンテンツをいったんダウンロードしないと気がすまないというのは、貧弱な水道しかないのと思うのと同じなんですよ。水道の出が良すぎるという状態になるという未来を、水がたまるまでの時間の短さ(=ダウンロードの速さ)でたとえるのは、的が外れています。
コンテンツをダウンロードして携帯用の端末で楽しむ、という使い方のために、いったんデータをダウンロードする必要がある、論もあるかと思います。しかし、携帯電話を使った通信もISDN以上に速くなりますので、データをいったん自分のところにためる必要性はどんなシーンにおいてもなくなります。それこそ、携帯電話の通信速度がかなり速くなれば、ISDNもADSLもCATVのインターネットも不要になります。すべての通信を携帯電話経由にすればいいですよね。現に、固定電話を契約せず、携帯電話やPHSだけで済ましている人も増えているくらいですから。
地上波のテレビくらいの解像度であれば、ADSLプラスアルファの通信速度でストリーム再生は可能です。なのにそれ以上の光ファイバーだの何なのを持ち出して、さらに「〇分でダウンロード可能」とだけ書いてある記事が多すぎます。高速通信の意味合いを全く理解しておらず、庶民に新たな出費を強いるように受け取れます。だって、将来的に過度の設備を導入せよ、といっているのと同じですからね。つまり、十分すぎる設備にカネをつぎ込め、と。
マスコミの的外れにと同じくらい気になるのが、政府が唱えるe-Japan構想。光ファイバーを使った超高速通信を云々というものですが、そんなに超高速な回線が必要でしょうか。地上波の画像がADSLで受信できるくらいの速度で十分なのではないでしょうか。高速であることに越したことはありませんが、多額の投資に見合った成果は得られないと考えます。
マスコミも政府も、高速通信でないとダメ、みたいな変な煽り方は謹んでもらいたいものです。現状でメガビット(ADSL)は必要だと思いますが、ギガビット(光ファイバー通信)は宝の持ち腐れに終わります。鵜呑みすると、小遣いと税金を無駄使いすることになりかねません。