正確なテンポは誰にもわからない
最近、音響関連で実感した大きなことは、正確なテンポは誰にもわからない、ということです。デジタルの機器は、基準となるテンポ、すなわち水晶発振子に正確に同期させているというだけであって、その水晶発信器自体の性能は、実は結構いい加減だったりするのです。“デジタルだから正確”というのは錯覚です。
例えば、レコーダーに録音されている音をアナログ端子(デジタルでもよい)から出し、パソコンに録音します。これをファイル化し、データとしてレコーダーの別トラックに戻します。元トラックといったんPCを経由したトラックの頭をそろえて再生しますと、まず間違いなく、演奏がズレてゆきます。レコーダーの基準クロックとPCの基準クロックが異なるからです。
ちょうど60秒の演奏があったとします。仮に、レコーダーはクロックが正確としますと、レコーダーは264万6000クロック使ってそれを記録します(44.1kHzの場合)。一方のPCはレコーダーに比べて水晶発振子が1%遅いとしますと、同じ60秒を記録するのに261万9540クロックしか使いません。
PCのデータをそのままレコーダーに転送してから再生すると、1%少ないクロックしか再生しませんから、本来60秒の演奏が59.4秒に縮まってしまいます。
そこで、録音の現場では“ワードクロック”なる概念を導入しています。基準となるクロック(水晶発振子)を1つに絞り、各機器のクロックをその水晶発振子に同期させるわけです。これなら、データを機器間でやり取りしてもテンポはズレません。1クロックたりともズレないので、各トラック間で波形をピッタリ合わせることも可能です。
しかしながら、そうして正確に編集したトラックも、リスナーの再生環境によってテンポが変わってしまうわけですね。極端な話、水晶発振子が通常よりも2倍遅い場合、どの曲を聴いても、演奏時間は2倍に延びてしまいます。大抵の場合は誤差として無視される、というより問題にもされませんが、実はオリジナルと比べて、かなりテンポが狂って再生されていることが多いのです。