元ちとせが売れているおかげで「こぶし」なる奏法が一般の人にも知られるようになりました。ジャズ系の管楽器奏者も似たような奏法をします。さすがに「こぶし」ではなく、素直に「装飾音符」と呼んでいますが…。入れる場所やアプローチが違うので、同じ奏法とはいえないと思います。
ジャズ的な管楽器の装飾音符は、バッハのそれを真似たとも言われています。近代ジャズを作ったチャーリーパーカーというサックス奏者は、バッハを好んで聴き、それをアイデアにしたと言われています。しかし、バロック的な装飾音符とジャズの装飾音符は全く違います。バロックでは聴こえるように演奏、つまり文字通り「飾り」なわけですが、ジャズですと、装飾音符がはっきりと聴こえないように演奏するのです。
例えば、サックスで「ソラソー」と演奏する場合、真中の「ラ」の音がハッキリとは聴こえないように演奏します。「ソ」の運指は左手の人差し指、中指、薬指を押さえます。この状態で左手の薬指を上げると「ラ」になりますが、薬指は完全に上げてはいけません。「ソラソファソドー」の場合も、「ラソファソ」がハッキリ聴こえるのはダサいです。
なおかつ、「ソ」から「ラ」に移るときに指を少しゆっくりめに(装飾音符なのに矛盾してますが…)滑らかに動かします。こうすることで「ソ」から「ラ」に移行するときに発生するダークな音が含まれ、ジャズっぽいサウンドになります。「ラ」から「ソ」に戻るときも同じです。
「ソラソー」ではなく「ソラー」の場合ですと、「ソ」をハッキリ聴こえないようにします。フレーズの出だしでよく使います。
「ソラー」の場合でも、「ソ」をハッキリ聴こえさせる場合があります。かつて「ベンド」という奏法があり、これを現代では“ハッキリ聴こえさせる装飾音符”で代用するという面があるからです。ベンドといえば、カウントベイシー楽団のサックスセクション。例えば「ラ」に向かって、「ソ」や「ファ」から滑らかに音程を上げる奏法です。昔はこれを口で行っていたのが、最近は指でやる、ということです。サックス吹きで未だにベンドしている人は、よほどベイシー楽団が好きな人でしょう。ちなみに、ベイシーの譜面でトリルが出てきたら、2度ではなく短3度でトリルします。
ビデオでライブを見るとき、サックスだとわかりにくいですが、トランペット奏者の指を見ていると、その様子がよくわかります。ジャズの専門家以外からすると、実に奇奇怪怪とした指の動きに見えるでしょう。知らない人はきっと“この人はきちんと指が動かないのでは?”と思うでしょう。しかし、すべて計算ずくのプレイなのです。
ジャズにおける装飾音符は、旋律的な意味で使うのではなく、音色にバリエーションを加えるという意味で使うといった感じでしょうか。なんにせよ、ジャズ的な装飾音符を演奏するのは、非常に難しいです。